穴窯の構造

神崎紫峰著

この原稿はThe Logbookの2001年第6号に掲載されたもので、同社より転載許可を得ています。
The Log Book, P.O. Box 612, Scariff, Co.Clare, Republic of Ireland.




 ここでは穴窯焼成から得た方法について述べようと思う。穴窯の構造と焼 成法については密接な関係があるので、私の穴窯の焚き方と窯の構造の詳細 をここに紹介する。

 私の穴窯は火袋にロストルがあり、格子状の穴を持つ壁が背後にある。伝 統的な日本の穴窯には、そのような形のものはない。私は信楽に生まれ育っ た。幼いころ、信楽には登り窯がたくさんあった。信楽の登り窯は11部屋 を持つ非常に大きなものだった。前の10部屋は製品用で最後尾の11番目 の部屋は素焼き用だった。私は穴窯を築く前、この11部屋目に注目し、そ の部屋の機能を考えた。それで、背後に壁を持つ穴窯の設計をした。この壁 を付けたことで、いつもは空の第二焼成室ができたことになる。その当時、 火袋にロストルを付けることは考えていなかった。当時私は穴窯の勉強をす るため、備前、常滑、益子、瀬戸、美濃等々、多くの窯場を訪ねた。美濃で 松山祐利先生に会った。私が長年夢に描き追い求めていた、先生の自然釉の 作品に驚きと興味を抱いた。先生の穴窯を見てまた驚いた。先生の窯には背 後の壁とロストルが付いていたのだ。地面からロストルまでの高さはおよそ 1メートル、背後の壁面には同じ大きさの7個の穴があった。

 どうしてこの窯には、ロストルと背後の壁があるのかを松山先生に訊ねた ところ、「ロストルだが、それは非常に高く作っている。と言うのは、火袋 に溜まったおき炭がロストルからほとんど落ちるので、温度を上げ易いんだ。 背後の壁だが、その後ろには空間があって、窯焚き中温度をうまく維持する 役目をしているんだ。」と、松山先生は言った。私はその日から2年後に先 生の弟子になった。私は戻って、地面から50センチの高さのロストルを付 けた穴窯の設計図に変更した。私は先生の窯と同じように、ロストルと7個 の穴をあけた背後の壁のある穴窯を築いた。だから、ロストルと背後の壁の 付いた穴窯は、私独自の考えではない。窯焚き中に体験したさまざまな困難 を解決するために発展させたものだ。その時以来、13基の穴窯を築いた。

 私はいつも生の作品を穴窯に詰める。従って、窯焚きのはじめのうち、あ まり早く温度を上げないように気をつけねばならない。ご存知のように、お よそ230度あたりで土に含まれている水分が急激に出て行く。多くの作品 が割れがちなのはこのあたりなのだ。

 私の穴窯の火袋にロストルを付けている理由のひとつは、窯の焚きはじめ から230度に達するまでの温度の調節と管理が容易に出来るからだ。と言 うのは、火袋にあるロストルの下には大きな空間がある。私はこのロストル 下の空間を下焚き口といっている。(写真1参照). 窯の半分が地下にあるのでよく湿る。 だから、焚き口からおよそ10センチ離れたところに薪を置き、下焚き口の 外側でキャンプファイヤーのように焚き始める。(写真2参照). これは窯を乾かし、窯の温 度をゆっくりと上げるのに役立つ。窯の中の温度が100度程度になるまで この小さい炎で焚き続け、徐々に下焚き口の中で焚くように動かしていく。 温度がおよそ300度になるまで、このロストル下に薪を入れて焚く。温度 のチェックは火吹き穴でする。火吹き穴は背後の壁面から40センチのとこ ろにあり、窯の床から70センチ上にある。窯の外で焚きはじめると、ゆっ くりと温度を上げることができるし、相当分厚い作品でも気をつければうま く焼ける。

 温度がおよそ300度に達すると、下焚き口での窯焚きをやめ上の焚き口 から焚き始める。同時に、下焚き口は空気穴に変わることになる。次のよう に:[2枚の棚板をあわせて、下焚き口の幅よりおよそ1.5センチ狭い棚 板を準備する。この2枚の棚板を、焚き口の左右にくっつけるようにし、そ の中央に3〜4センチ幅の空気孔を残す。次にその棚板の前にレンガを置く。 下の3枚のレンガは、棚板から2〜3センチ離して置き、 (写真3参照), 残りのレンガは上 まで直接棚板に付けて置く。空気はその3枚のレンガと棚板の隙間を通り窯 に引き込まれる。後に述べるが、4枚目のレンガの位置は、窯焚きの7日目 以降に調節する。

 私の窯焚きは10日間以上です。だから、上焚き口に移って9日かそれ以 上の窯焚きを続けることになります。温度が850度に達すると還元焼成に 入ります。火袋に薪を投げ入れると煙突と火吹き穴から煙や炎が出てきます。 その煙や炎が消えると同時に再び火袋に薪を投げ入れます。

 窯焚き中、通常、炎は窯の壁面や天井に沿って流れがちです。窯の中央部 や底、(もちろんそこにも私の作品が詰めてありますので)に炎を流すのは 非常に難しいことです。9箇所から14箇所の穴(自分で決める)のある背 後の壁(窯の最後尾にある)をつくっているのは、この状況を何とかしよう としたからなのです。この壁の最下部の真ん中の穴が最も大きく、左右と天 井にある穴ほど小さくなっています。(写真4参照) この穴の場所と大きさは、毎窯焚き前 に容易に変えられる。下焚き口の中央部を開けて一次空気孔をつくり、窯の 中央部に炎の流れを容易に集中させるよう調節するのは、自分の判断による。

 窯焚ごとに困難なことが起こるしそれらを解決せねばならない。通常、も っとも困難なことは窯焚7日目以降に起こる。時に温度が下がることがる。 このような場合、火袋に溜まったおき炭の量をチェックする必要がある。ー 適当な量を知ることだ。おき炭が適量なのに温度が下がるときには、上焚き 口から入る一次空気と下焚き口から入る二次空気をチェックせねばならない。 時には上下寮焚き口から入る空気の量を増やさねばならないこともある。ま た、煙突の空気穴を大きくし、空気の流れを多くせねばならない。

 窯焚中、焚き口あるいは煙突の空気の量を増やすかどうかの判断は、私の体験 に基づいている。前もってその調節をどうするかを言うのは難しい。:と言う のは、いつも違うし、その窯焚きの環境やその時の状況に従って判断している。 あまりに沢山の空気を入れると決して良い結果は得られないので、煙突や焚き 口の開きをわずか5ミリ単位で注意深く調節している。

 もしおき炭が増えて温度が下がってきたのなら、そのおき炭の量を減らさね ばならない。通常は投入する薪の量を減らして焚き始める。その窯焚きの状況 によって、おき炭の量の減少と温度下降がなくなったかを判断する。しかしそ のような方法でもおき炭が減らない場合には他の方法を試みる。通常私の窯で は、薪を投げ入れるサイクルは、煙突と火吹き穴からの炎が消えると同時だ。 しかし、おき炭の量を減らそうとしている場合には、30秒ほど遅らせている。 時には、薪を投げ入れる前に、火吹き穴からの炎が窯の中に吸い込まれている のが消えるのを確認している。このようにして、おき炭の量を正常にしたなら、 通常の窯焚きのサイクルに戻る。

 時には、おき炭の量がまだあまりに多く、温度が上がらない場合があります。 このような時には、下焚き口に溜まったおき炭が硬く固まっているかを調べる ことです。もしそうなら、鉄棒でその塊を砕けば、その状況を解決できます。 もしおき炭の塊を砕いた後でもまだ温度が上がらないなら、下焚き口の4番目 のレンガを開き、窯により多くの空気を入れる必要があるかもしれません。こ れで通常状況をただし、温度を再度上げることが出来るでしょう。覚えておく べきもうひとつの点は、炎の流れをより早くしたいときには、窯前面の中央の 空気穴を調節して、多くの空気を入れることです。 (写真5参照)

 私は温度計やコーンを使ったことはありませんので、私には、窯の中の炎の 色、煙突や火吹き穴から出る煙の形や色に全神経を集中させねばなりません。 これらの観測から、窯の中の炎の流れや雰囲気の判断しているのです。私は、 私の過去の体験や、窯焚ごとに自然に変化する窯焚き中の環境を感じ、それに従 って窯焚きをしています。

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 神崎紫峰は信楽・日本で生まれ育った。彼は三越、伊勢丹、松屋などの大手百 貨店にて個展を開催している。1972年来、13基の穴窯を築き、4期の穴 窯を焚いている。3基は日本にあり、一基はアメリカ・ペンシルベニア州・ブ ルームスバーグにある。この窯は、どう大学教授・カール・ビーマーと築いた 窯で、「神崎・ビーマー幻窯」としてよく知られている。また彼は「炎の縁・ 人の縁」の著者でもある。

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