穴窯について

 信楽の歴史でも述べたように、信楽本来の素朴さと日本本来の美の一つに上げられる『侘やさび』を兼ね備えた作品を作り出してきた窯は『穴窯』だった。つまり、多くの窯の型式の中では最も古い型の窯が穴窯だ。だが信楽には江戸時代(17世紀初頭)以来その穴窯は姿を消していた。昭和40年代信楽の若手陶芸作家、古谷道生氏、神山易久氏が穴窯を復活、以来信楽にも穴窯が増え、現在53基が活動している。信楽焼生産実態調査によれば、昨年一年で6基の穴窯が増えた。

 長年途絶えていた穴窯が信楽に復活し、各々の陶工が、暗中模索のうちにその焼成法の研究を重ねている。連房式登り窯の薪窯焼成法については、長年の経験で各々の窯元が体得していた。しかしその方法と穴窯のそれとは全く異なる。なぜなら、登り窯で焼成していたものは釉薬を掛けたものだった。ことに信楽では、昭和30年代まで火鉢が主要製品で、なまこ釉の火鉢がその主流をなしていた。何しろ、全国の火鉢の需要のおよそ90パーセントを信楽が賄っていたのだ。そして、信楽の登り窯は非常に大きく、その登り窯をひと窯焼くには多くの人の手と、長い月日、それに莫大な経費を要した。一軒の窯元が年に数窯焼くのが精一杯だった。だから、ひと窯の失敗は倒産をも覚悟する必要があった。失敗しない安全な焼き方は自然釉と相いれず、、自然釉を目指す者にとっては、その窯から自然釉の作品を得ることは不可能に近かった。

神崎紫峰の穴窯とその焼成法

 陶工ひとり一人異なったデザインの窯を持ち、異なった窯の焚き方をしているのでそれらを全て述べることは不可能だ。ここで述べられるのは、自分がどのような窯を使いどのようにして焼いているかだけなので、それを述べることにする。しかし、窯焚きの時の条件、例えば、作品構成や、天候、地下の水分の状況等、いつも異なった条件の元で異なった焼き方をしているため、凡その原則だけしか述べられないことを先ず断わっておく。

 神崎紫峰の穴窯は単室、半地上式の穴窯が三基(内一基はアメリカ、ペンシルベニア州、ブルームスバーグ)、双胴式穴窯が一基ある。ここでは、単室半地上式穴窯だけを述べる。単室穴窯3基は同じデザインで、幅が少し異なるだけだ。そこで、信楽の標準的な大きさの私の穴窯を紹介しようと思う。勾配は3寸で幅160センチ奥行き3メーター50センチ、高さ1メートル。火袋の奥行きは80センチで、焼成室は2メーター。その奥に50センチの奥行きの空部屋がある。そこから煙道が出ていて、煙道の長さはおよそ4メーター。火袋にはロストルがあり、従って、焚き口はロストルの上と下、2箇所に付けることができる。火袋の手前は少し狭くなっていて、高さも焼成室より少し低く、手前になるほど狭く低くなっている。焼成室の天井までの高さはおよそ1メートルだ。これが、私の穴窯の全容だ。

 そこでこれから、私の窯の焼き方を説明しようと思う。先にも述べたように、窯焚きの時の条件でも焼き方は異なるし、私は温度計やゼーゲルコーン等を一切使わず、勘だけを頼りに焼いているので、その全てを説明することは非常に困難だ。だから、ある窯焚きの記録をもとに、お話ししよう。

stoking 私の窯は前にも述べたように、ロストルを付けているので、焚き口が上下二つある。窯に火を入れるときは、最初、下の焚き口から焚き始める。上の焚き口は素焼きの陶板で蓋をしておく。煙突は全開だ。最初の火は焚き口の外で焚き始める。焚き口の中、つまり窯の中に薪を入れて焚き始めると一気に温度が上がるからだ。焚き始めのころは、外で燃やした火の煙が窯の中に入っていく程度だが、それでも窯の中の温度は上昇していく。そして、一気に温度を上げないように少しずつ薪を窯の中に入れていくようにする。私の場合、この下焚き口で時間をかけることにしている。およそ12時間程で窯の中の温度は摂氏300度前後になる。このあたりになると温度の上昇は止まる。それを見て、上焚き口に移る。上焚き口に移るときには、一気に温度を上げないように、薪の量の調節をする。そして、下の焚き口は空気の入る孔を作って蓋をする。後は上の焚き口だけで焚いていくことになる。

 焚き始めから30時間近くになると、色見孔からわずかに赤みをおびた煙が出始める。窯の中の温度は摂氏800度程度だ。これを確認して煙突を半分ほどに閉める。どの程度の開きにするかはその時の様々な条件によるによるので、一概にいうことは困難だ。煙突から出る煙の色は次第に黒くなっていき、夜になるとかすかな炎が見え始める。

Firing of outside5日目ともなると、色見孔から出る炎は長くなり、白みを帯びてくる。煙突の炎は、薪を入れた直後は上から抑え付けられたような感じの炎になる。この状態で、8日目まで引っぱる。7日目、8日目になると、焼成室の中におき炭が増え始める。おき炭が増えると温度が下がることもあるので、もし温度が下がったと感じれば、薪の量を減らせばよい。8日目の終ごろから、煙突からドンという曝発音がして、大きな炎が煙突から出始める。夜だと、周りが明るくなるほどの炎だ。この状態を維持しつつ、10日目を迎える。煙突の炎の色が、少し白みを持ってくればほぼ焼き上がったと見てよい。この様にして焼き上げた作品が、私の作品だ。